中耳炎などの耳の疾患や加齢により難聴が固定化し、日常生活に支障がある状態が続くようになったとき、それを補う器械が「補聴器」です。聴器といえば長く「年寄りくさい」と敬遠されがちでしたが、40歳を超えると誰もがなる老視(老眼)を矯正するものとして用いられる老眼鏡が、近年随分おしゃれになったように、最近の補聴器は小さくコンパクトになり、おしゃれなものも増えてきました。
ですから、治療を行っても、どうしても聴こえの不十分さが残るという場合には、積極的に補聴器を利用することにより、日常生活の不便さを取り除き、より良き生活を取り戻していただくことをお勧めしています。
補聴器の使用において、3つの大切なこと
まず第1は、「何より本人の意欲が大切だ」ということです。
補聴器は、人の声だけを大きくしてくれる「魔法の器械」ではありません。人の声も大きく聞こえますが、同時に周りの生活音も大きく聞こえることになります。
ただ、その生活音は聞こえが良かった時には当然ふつうに聞こえていたものなのです。
そうした音も、その頃には気にならなかったように、補聴器に慣れてくるとやがて気にならなくなります。
「最初は少々うるさいと感じても、頑張って使っていこう」という意欲が大切です。それがないと、最初の段階で「こんなうるさいもの、使っておれない。」となって中断してしまい、それ以上慣れていくことができなくなります。
第2は、第1のこととも関係することですが、「補聴器をうまく利用していくためには練習が必要だ」ということです。それは、補聴器をとおして入ってきた音を言葉として認識するのは頭(脳)であることによります。頭(脳)が補聴器の音に慣れることにより、自分の聞きたい人の声を周りの音と区別して聞き分けられるようになるのです。そのためには、「最初は静かなとことで短時間使用し、次第に周囲の音のあるところで長い時間使えるようにする」という段階をふんだ練習が必要となります。
第3は、これも上に述べてきたことと関係することですが、補聴器はきちんと聴力を調べて、そのうえでそれぞれの人に合うように調整する必要があるということです。それは、眼鏡やコンタクトレンズを利用するとき視力や眼球の位置をきちんと調べて、それぞれの人に合わせて調整する必要があるのと同じです。それでないと、まわりの生活音(いわゆる雑音)ばかりうるさくて、人の声が聞き取りにくいということになります。
人の眼鏡を試しにかけてもクラクラするのと同じように、人の補聴器を借りてもうるさく感じるだけですので、人の補聴器で試し聴きをすることはなさらないでいただきたいと思います。
以上の3点をきちんと押さえておくことが、補聴器を正しく使いこなすためのポイントとなります。